1997年11月14日(金)
23歳

一日中雨はやまなかった、夕方。

杉ちゃんとドライブ。
北山、山科、宇治。
朝5時帰宅。

杉ちゃんは叫び僕は運転する。
7時間のドライブを要約するとそれ以上でも以下でもない。

最近考えてものをしゃべれない。
自分が何を言っているかよくわからない。
言うことがなければ黙っていればいいと思うが黙ってて許してくれる人は少ないからしゃべる。

あーうー。相手は怒る。知ったことじゃない。

面倒くさくてパジャマでイズミヤに行ってみる。ヒゲも剃ってない。
パジャマでイズミヤに行きヒゲを剃らないでいると、フランダースの犬で泣けるということがわかった。多分フランダースの犬は関係なくてあまりの情けなさに泣けるのだ。

パトラッシュは名前で得していると思う。
慇懃無礼とかいう名前だったら迎えに来るのは天使でなく
カニみたいな顔の公務員だ。浮かばれない。

1997年11月13日(木)
23歳

久しぶりに雨が降る、未明。

3月に予定していた個展を一旦見送ることにした。
経済的な理由が一番だが、ちょっと疲れているのもある。
何にそんなに疲れているんだろう。
書いていると疲れていない気持ちに変わる。
ひねくれている。
疲れているからひねくれている。のか?

言い訳!
自分を責めるのは逃避だ。岸壁からとびこみたくなる。

黒田三郎「ああ」

ああ
あんなにも他愛もなく
僕自身によってさえやすやすと
欺されてしまったのに
僕には
僕を欺すことさえ出来ない
なんて

京都は少しも雨が降らない。
色んな人に迷惑をかけて恥をさらしてばかり。
ごめんなさい。

1997年11月11日(火)
23歳

海へ行ってタバコを吸う、火曜。夜。

しばらく京都を離れていた。
疲れているのでうまく書けない。

人と会うと疲れる。
僕が人と会うと疲れる人間だからなのか、
僕を疲れさせる人間と会っていたからなのか、
わからない。
きっとわかったから改善するものでもない。

ああ今週はもう何もしない。

伊勢湾の寂しい海岸で週末を過ごした。
月は明るく薄気味悪く、何だか気恥ずかしい。
夜通しタバコを吸った。
久しぶりに独りでいてよかった。

1997年11月7日(金)
23歳

音のない世界、午前3時。

調子がよくない。最近割に安定した日々を送っていただけに、なおさら調子悪く感じる。嫌なこと辛いことなんて、ずいぶん前に遠い田舎のタバコ屋に置いてある赤い公衆電話に捨ててきたはずだった。
ああこんなことを言い出すのはどうもよくない知らせだ。虫の知らせ。硬い表皮を持った無言で這いずる黒い虫の知らせ。

自分を書き過ぎることに対して焦りや痛みを感じる。
こんな夜は中途半端にうなだれていないで、本格的にうらぶれてしまえばいい。
二十歳以降、必要以上の大袈裟な喜怒哀楽が減った。それはあるいは人間の単なる遺伝子的な必然かもしれないし、それとは違ったもっと俯瞰的な何かかもしれない。今日、この時間、この部屋で感じている言い知れない沈滞の澱は、言い訳や嘘を生への代償として容認せざるを得なかった自分に対する救済なのかもしれない。

音はなにも聞こえない。灯りを消す。

過去の日記をひらいて自分のためだけに泣いてみようかと思ったりする。
格好悪いと反射的に思ってしまう自分を羞じる。

僕はそんなセンチメンタルでは泣けない。
タバコに火をつける。
字が読めない程度に、ぼんやりと日記帳の影だけが浮かび上がる。

1997年11月5日(水)
23歳

タバコを吸う、の夜。

大学にくるまでは大嫌いだった。夜中の公園で格好づけに一口二口吸ってみたことはある。吸い方を知らなかったのであれは吸ったことにはならない。

いつの間にかタバコをくわえていないと人と話せないヘビースモーカーになってしまった。日記を書く時、絵を描く時、人と会う時、いつも手放せない。きっかけには思いあたることがある。

先日ニュースでタバコに精神安定効果がないことが証明されたと報じていた。まあそうだろう。大体のことは気のせいだ。死にたい気分も、幸せも。

格好つけてるだけだと君は嗤うが、格好をつけることをなぜ嗤うのか理解できない。
君たちは素の自分がそんなに魅力的なのか?
大した自信だなと僕もまた嗤う。

ああ、そういう醜さ。
そうした醜怪で低劣な言葉を吐くかわりに僕は煙を吐き出しているのだ。