1998年2月2日(月)
23歳

つまり僕はどこも向いてはいない。

指。小川洋子の「余白の愛」のような、指。速記者の、指。
ピアニストの指。現場監督の指。酔っぱらいの指。諦めた人間の、冷たいような熱いような、指。

手。手がいっぱい。目を閉じる。そこにも、手がいっぱい。
みんなキライ。みんなスキ。さようなら。こんにちは。おめでとう。ありがとう。

壁。壁のしみ。壁の哀しみ。うごかない哀しみ。うごけない苛立ち。
煙り。タバコの煙り。白い煙り。濁った白い、煙り。

<哀しみよ こんにちは 哀しみよ さようなら>

エリュアールは、一体どんな気持ちでガラとダリを見送ったのだろう?
マン=レイはリー=ミラーに向けてどんな気持ちであの「セルフポートレイト」を撮ったのだろう。

あなたにはいつだってあやまっていました。
あなたには僕の笑い方が気持悪かったのでしょう。

冷たい。キッチン。夜。ステンレス。頬をあてる。冷たい。冷たいのはキライ。
そうです。自分を傷つけて愉快になる。
なぜならちっとも傷つかない場所で傷ついていたからな。

バー。バーの壁。くらい鼠色の壁。不安定な手触りの、安心感。ドアの向こうのいたみ。笑い。嘲笑。
<ナニカ カンチガイ シテナイ?>
何が欲しいの?何も欲しくなかったの?あめ玉。いらなかった。そんなもの。でも笑った。きれいに、笑った。

泣いた。だから笑っていた。笑っていれば、そのうち何とかなるって。てへへ。えへへ。
ポンッと地球の外にとびだして消えてなくなりたい。
でも笑うのだ。笑うことだけが教えてもらった全て。
どう?この道化?
ちがうよ。

フランシス=ベーコンの絵に似て僕の顔はますます歪んでゆく。
美しい雨に濡れるように。
醜い内臓に溶け合うように。

さて、失格。