1998年1月24日(土)
23歳

望んだ分だけ。

押し入れの中に2年前の個展に寄せた雑文が転がっていた。

「石の卵」(1996)

君が(ヨルヲハコブ)という言葉を残して死んでしまったから、
生活に戻った僕は砂漠になる。
灰色の砂漠は段々大きくなって、僕の様々な部位を侵食する。
狂っていると感じながら 僕は砂漠が育つのを見ている。

<<ランボオだったっけ?海に太陽が溶けたのは・・・>>

記憶。かすかな何かの記憶。小骨のように無視できない生理。
ああ、ぐらぐらする。なんだろう。
これが海に溶けた太陽?でも永遠は見つからない。

夢。万能消しゴムに関する夢を見る。
それは昼夜を問わない。
白昼の高層ビル、真夜中の電柱。その記憶。記憶としての、記憶。
皆消える。万能消しゴムを使う。
ああ、ほんとうにいやだ。
僕は何者なのか、という質問のための忘れたふり。
忘れたふりをし、生きているふりをする度に砂漠が育つ。
S・カルマ氏もきっと同情してくれるだろう。
記憶。記憶。
僕は君が本当に大嫌いだった。

<<石の卵、淡々と。>>

座る。水は正確に一滴づつ僕の上に落ちてくる。
いつからこうなのか、もう思い出せない。
水は遠いところから落ちてくる。
僕の固い、冷ややかな表面にぶつかる度に無数の芥がつくられる。
それは(希望)だったか?
適度な熱をもって消えてゆくほか何もない。
どこか遠い所で見知らぬ人が抱いた(希望)という名の嘘は、
たった一粒の水滴になって死んでしまった。
けれどその(希望)たちのことを考えている時間はない。これまでも、これからも。

石の卵がある。僕もそこに在る。
僕を含む周囲の環境に構造的矛盾がない、
故に僕自身が断片的な不連続面の集合(モホロビチッチとは無関係の)となる。
いつはてるともなく(希望)という嘘は落下運動を続け、
僕はじっと石の卵であり続ける。

<<射殺された濃紺のロルカ。>>

[ぼくは井戸へおりていきたい/ゆっくりと味わいながら/ぼくはぼくの死を死にたい/ぼくの心を苔でみたしたい/水に傷つけられた子供をみるために]

地球儀の内部から心音が聞こえる。
(1996.3.18)