1997年12月11日(木)
23歳
雨の日のために。
雨の日のために傘を置かずにいる。
雨の日のために音楽を流す。
痛々しく冷たい雨の夜には
暖房をよして
土で出来た土色のカップに
モカを淹れる、その湯気
毛布にくるまりながら
聞き取れない幽かな音で
バッハの組曲を聴く
灯りは消えたまま
その黒い部屋で
熱くて苦いカップの中から
白い湯気が魂のように窓辺へ逃げてゆくのを
黙って見ている その憂鬱が
僕だけの幸せだとうつむきながら。
雨の日のために、僕はただ
外に出て 濡れることしかできない。
額から 両方の目から あごを伝って
コートにしみこんでゆく
行き場のなくなった痛々しい雨に
その冷たさに 慰められる
僕が
あるいは あともう僅かな時間だけ
乾いてしまわなくていいように