1997年11月25日(火)
23歳

カーテンは開かない朝、金曜。

かつては私も 中原中也

かつては私も
何にも後悔したことはなかつた
まことにたのもしい自尊のある時
人の生命は無限であった

けれどもいまは何もかも失った
いと苦しいほど多量であった
まことの愛が
いまは自ら疑怪なくらゐくるめく夢で

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愛するがために
悪辣であつた昔よいまはどうなつたか
忘れるつもりでお酒を飲みにゆき、帰って来てひざに手を置く。

雨。ブラームス。コーヒー。煙草。濡れたコートが重い。

久しぶりに河原町の画廊を巡る。
自分も学生だが学生のグループ展は大体面白くない。
面白い「人」には出会うが僕は面白い人を探してギャラリーを巡回しているわけではないし、仲間を見つけたいわけでもない。適当に群れて適当に楽しく描いた絵を適当に展示した空間は、僕を寒々しい気分にしかさせない。

そんなことを言っているとまた「自分たちは普通の学生だからほどほどに楽しめればいい。」と嗤われる。みんな嗤う。嗤われている間、僕は少しも嗤えない。そんなに何がおかしいんだ。頭おかしいんじゃないのか。

クソメガネくんの個展。
相変わらずクソメガネ。
でも絵を描くのが本当に好きな人の絵はすぐわかる。うまかろうがうまくなかろうが、見ててすぐわかる。音楽もそう。勉強なんてしなくても何となく感じるものがある。むしろ詳しくなると詳しくなることだけに快感を覚えて自分を信用しなくなる。

僕はクソメガネくんが好きである。
でも仮に先輩でなく枝くんが連れてきていたら僕は彼を好きになっただろうか。
僕は先輩がいるかもしれないからこの個展に来たんだろうか。
否定できない。
偉そうな自分に苛立つ。