1998年2月1日(日)
23歳

穿つ。

カーテンの奥を覗いて。
外の世界が奥なのか。部屋の内側が奥なのか。
いないことが恐怖なのか、いることが恐怖なのか。
永久に閉じてしまおうとした窓から、それでも少しづつ光はもれてくる。

ひかり は いや。眩しい。いたい。
にがいものはイヤ、という子供じみた未分化な味覚に似た、感情。

ごめんなさい。
あやまることなんて、いくらでもできる。
本当にごめんなさい。
本当に本当にごめんなさい。ボク ガ ワルカッタ。
そんなうわついたセリフで、傷つくことを避けるように
ゴメンナサイ と アイシテル を 同じ舞台にたたせて
そんなに何をこわがってるのか?
銃殺されたガルシア=ロルカのように。

(僕はそっと震えているだけ)

もっともっとと求めることだけを繰り返してほしがって。
「僕は何もあげられない」なんて都合の悪いことは逃げ出して。
アンタヲ ミテルト イライラスル。ウソ バカリ。

何も罪悪感を感じなかった僕だけのコトバは
砂時計の傾きと同時に壊れ去って
あとには ごまかしと嘘だけが残った。

1998年2月2日(月)
23歳

つまり僕はどこも向いてはいない。

指。小川洋子の「余白の愛」のような、指。速記者の、指。
ピアニストの指。現場監督の指。酔っぱらいの指。諦めた人間の、冷たいような熱いような、指。

手。手がいっぱい。目を閉じる。そこにも、手がいっぱい。
みんなキライ。みんなスキ。さようなら。こんにちは。おめでとう。ありがとう。

壁。壁のしみ。壁の哀しみ。うごかない哀しみ。うごけない苛立ち。
煙り。タバコの煙り。白い煙り。濁った白い、煙り。

<哀しみよ こんにちは 哀しみよ さようなら>

エリュアールは、一体どんな気持ちでガラとダリを見送ったのだろう?
マン=レイはリー=ミラーに向けてどんな気持ちであの「セルフポートレイト」を撮ったのだろう。

あなたにはいつだってあやまっていました。
あなたには僕の笑い方が気持悪かったのでしょう。

冷たい。キッチン。夜。ステンレス。頬をあてる。冷たい。冷たいのはキライ。
そうです。自分を傷つけて愉快になる。
なぜならちっとも傷つかない場所で傷ついていたからな。

バー。バーの壁。くらい鼠色の壁。不安定な手触りの、安心感。ドアの向こうのいたみ。笑い。嘲笑。
<ナニカ カンチガイ シテナイ?>
何が欲しいの?何も欲しくなかったの?あめ玉。いらなかった。そんなもの。でも笑った。きれいに、笑った。

泣いた。だから笑っていた。笑っていれば、そのうち何とかなるって。てへへ。えへへ。
ポンッと地球の外にとびだして消えてなくなりたい。
でも笑うのだ。笑うことだけが教えてもらった全て。
どう?この道化?
ちがうよ。

フランシス=ベーコンの絵に似て僕の顔はますます歪んでゆく。
美しい雨に濡れるように。
醜い内臓に溶け合うように。

さて、失格。

1998年2月4日(水)
23歳

憂鬱。

楽しいことがあると後の哀しみが怖いのであまり楽しまないようにする。
哀しいことがあるとひたすら笑い続けることで自分でもよくわからなくなるように誤摩化す。

防衛手段。
人を攻撃して自分も壊れていくよりは、全てを誤摩化して中和させることを選んだ。

嘘。
何が 嘘 だったのかしらない。もちろん、何が 本当 だったのかもしらない。
そんなことは、どうでもよかった。ただ、何もしたくなかった。

人に嫌われたくなくて笑う。
人に好かれたくなくて笑う。
自分の好みを人に投影して嬉しそうにする君に悪寒がする。
僕もそうだからなおのこと。

「勝手すぎる。わがままいうな。」

自分は棚上げで人のことばかり。
そして自分のことを言われると腹をたてる。
何がそんなに怖かったのですか。
何故、そんなことを平気でコトバにしてしまうのですか。

耳を閉じた。
おとのない きもち。でも おとはなっていた。気づかないふりをしていた、だけ。
例えようもない、善意と悪意。それにくっついてきた更に例えようもない何か。

「そばにいて。」
と狡猾な言葉を吐く。